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IDEC VOICE IDEC:International Development and Cooperation Professor interview 大学院国際協力研究科 教授インタビュー

研究概要

先生の専門は「国際法」と「紛争解決論」である。 裁判において扱われる「紛争」は一つの起こった問題についての「法律」に関わる「権利」や「義務」などの観点に限定して語られることが多い。しかし、「紛争」に目を向けるとそのような「法律」に関わる点だけでなく、民族紛争などは長年様々なものが積み重なった結果に過ぎないことが多い。そのため、「紛争解決論」では「法律」に関わるものだけでなく、様々な点に目を向ける必要がある。実際に、「紛争解決論」の中には、「対立」のもつポジティブな効果にも目を向けつつその「対立」がいかに「武力紛争」に結びつかないようにするかを管理する「紛争管理」や、表出している「紛争」という事象を手掛かりにその奥に潜む様々な要因にアプローチし、関係性を改善していくという「紛争変容」などといった考え方が存在している。このような多様な「紛争解決」の在り方の中では、「裁判」で扱うことができる「法律」問題は限定されている。しかし、その限定された「法律」がどれくらいの可能性を秘めているのか、いかに「法律」をうまく使うことができるのかに興味があるという。

コソボ紛争がきっかけで大学院へ

大学の学部生のころに1年間モスクワに留学し、外国にいる人と生活を共にする経験をすることで海外に関心を持ち始め国際関係について勉強してみたいと考えるようになったという。その後、コソボ紛争が勃発し、それがきっかけで大学院に進学を決めた。
大学院修了後は、国連専門調査員として働き始めたという。「専門調査員のころはとにかく忙しかったですね。交渉の場に立ち合う際などは日本代表として発言することもありました。良い経験になったと思っています。」と明るく振り返った。大学で働こうと思ったのは、大学院で後輩の指導に携わった経験からだという。「指導するうちにみんなの理解が深まり、どんどん成長していくのを感じることができました。そのような指導することの面白さを体感することで、大学で働きたいと思うようになりました。」と語ってくれた。

「違法だが正当」の意義とは

次に、研究について尋ねると自身の修士論文について話してくれた。「人道的介入というテーマについて、これはコソボ紛争の際に問題になったのですが、虐殺の行われている国に外国が武力で介入することについての研究です。」
国連憲章の中には、武力不行使原則があり、基本的には武力行使は禁止されていると考えられているが、コソボ紛争では北大西洋条約機構による武力介入が行われた。そのような人道目的の武力行使に対して「違法だが正当である」との評価がなされた。この評価を「国際法学」の観点の上でとらえると、どのような意味があるのかを研究したという。国連の武力行使禁止原則がどのように解釈されるべきか、その原則は人道的な介入を禁止しているのかといった解釈論や、実際に人道目的の武力行使が行われた様々な出来事についてその状況をそれぞれ分析することで、その「違法だが正当」という評価のもつ意義について研究したという。

「海底鉱物資源管理」をめぐる新たな法整備の必要性

また、先生は自分の専門分野である「国際法」と「国際協力」の関わりについて、海底鉱物資源管理を例えに自らの横浜国立大学、統合的海洋教育研究センターでの経験を交えて語ってくれた。このような鉱物資源は国を豊かにすると思われがちだが、「資源の呪い」といわれるように、実際はそれが原因で紛争が起こったり、腐敗が起こったりと資源が悪影響を及ぼすことも珍しくないという。海底鉱物は水深3000m以上の海底にあり、現在それらを活用するための技術開発や、民間企業の誘致による産業化に向けた動きがあるという。海底鉱物資源は太平洋の島国の周辺に多く存在しており、それらをうまく管理し、活用することができれば国の発展につながる一方で、管理に失敗すれば、国に大きな悪影響を及ぼすことになる。「外国企業を誘致することで掘削しようとする国もありますが、それらの国の多くは、水深3000m以上の海底で何が行われているかをチェックするだけの資金も人的能力を持っていません。世界的にも、前例がないことなのでどのような法整備がこれから行われるのかを注視しています。」と語ってくれた。

学生に向けて

研究室への入学を考えている学生に伝えたいことを聞くと、
「まずは、自分がやりたいこと、研究したいことが明確な学生に来てほしいと思います。」自分が知りたいことを学問的に明確にするのは難しいことだが、誰かにテーマや方向性を与えられるのを待つのではなく、本当にやりたいことが何なのかを一緒に考え、苦しくも楽しみながら論文を書くことができるようにサポートしていきたいと語ってくれた。
「次に、入学する前に学問的な軸をひとつ作ってきてほしいです。」自らの研究を作り上げていくためには学問的な軸は必要不可欠だという。「IDECの良いところの一つは学際的な研究環境ですが、軸があってこそのものだと思っています。修士論文を書く際には、何の学問分野で書くのかという軸がなければよい論文を書くのは難しいと思っています。」そのため、事前にコンタクトを取ってくれた学生には、国際法の基礎をしっかりと学んでから入学するように伝えているそうだ。そして、「研究を通して一緒に勉強して互いに成長していきたいですね。」と明るく語ってくれた。

掛江 朋子 准教授

カケエ トモコ

平和共生コース 准教授

主な経歴
2017.10- 広島大学, 大学院国際協力研究科, 准教授
2016.9-2017.3 ケンブリッジ大学, ラウターパクト国際法研究所, 客員フェロー
2014.4-2017.9 横浜国立大学, 統合的海洋教育研究センター, 特任准教授
2013.10-2016.3 横浜国立大学, 国際社会科学研究院, 特任准教授
2013.4-2017.3 中央学院大学, 法学部, 非常勤講師
2012.9-2014.3 尚美学園大学, 総合政策学部, 非常勤講師
2010.10- 2012.3 国連日本政府代表部, 政務部, 専門調査員(国際法)