研究の概要と対象地域
「国際経済学」というのが柿中先生の専門分野である。これは経済学の中でも特に、国家間の経済活動を分析対象とする分野だ。中でも、途上国の金融政策や開発政策に着目して研究している。先生のもとでは、ミャンマー・インドネシア・スリランカ・コートジボワール・カンボジア・ネパールなど世界中の国々からの学生たちが学んでおり、それらの国々が研究の対象となることも多いという。「途上国の金融システムは先進国のものと比べると脆弱なことが多いです。それを改善することができる金融政策について研究しています。例えばですが、物価上昇率(インフラ率)の目標値を設定し、それを達成するために様々な金融政策を行うというインフレーション・ターゲティングという考え方がありますが、同じような政策を行っても、先進国と途上国では生じる影響は大きく異なることがあります。そのような現象について、国際的な視点から研究することで、途上国の中央銀行や財務省がどのような政策を実行すべきかが見えてきます。」
人々の出会いによって生じた国際協力への思い
もともと柿中先生が学問の道を志したのは、金融機関在職中にニューヨークの投資顧問会社へ出向していた時だった。その後、Cornell大学の博士課程に入学し、親切な指導教官に出会い、彼のもとで博士号を取得したという。
「いつの間にか導かれるように学問の扉をたたいていました。彼との出会いによって自然と国際経済学の分野に興味を抱き始めました。今、振り返ると様々な人と出会い、それによって今ここにいるような気がしますね。」と柿中先生は笑った。
Cornell大学で博士号取得後、国際大学(IUJ)で教鞭を執り始めた柿中先生は、途上国出身の様々な生徒が数多く在籍する同大学で教えることで、自然と国際協力の分野に興味を抱き始めたという。
「途上国から来ている学生と長く接するうちに、開発途上国の現実や国際協力の現状を知りました。そこで学生から多くの刺激を受けたことが、国際協力について研究しようと思い始めたきっかけかもしれません。」
その後、広島大学国際協力研究科に移った現在は、ただの研究としての興味だけでなく、途上国の発展に少しでも貢献したいとの思いで、日々学生を指導しているという。
「広島大学でも、途上国から来ている様々な学生と出会いました。彼らが熱心に勉強している姿をみて、微力ながら自分が途上国の発展のためにできることは何なのかを考えるようになりました。ここで質の高い教育を提供することで、卒業生が国に帰った後、ここで身につけた能力や知識を広め、彼らの国の発展を間接的にではありますが、後押しすることができると考えています。」と熱を持って語ってくれた。
学生に抱く思い
(ゼミに所属している学生さんとの一枚)
「本当に頭のいい人はハーバードみたいな超有名な大学に進学すればいいと思いますよ。」と柿中先生。
柿中先生が学生に求めることは多くはないという。
「まずは熱意をもってきてほしいですね。自分が問題と思っていることを解決したいという気持ちや研究をやり遂げるという気持ちがあれば大丈夫です。それがあれば私やほかの先生と共にサポートすることができます。次に、柔軟であってほしいですね。学問の世界では、次々に新しい手法が生み出されており、それらを柔軟に取り入れる能力が求められます。最後に、社会に対して貢献したいという思いです。これらの思いを持ってきてくれれば、私は全力で後押ししたいと思っています。」
柿中先生のゼミでは、研究のことだけでなく、社会で役に立つ様々なスキルを身につけて卒業していってほしいという。ゼミでは、毎週2人ずつが論文についてのプレゼンテーションを行っている。
「学生のプレゼンテーションによって、自身が学ぶことも多いですね。幅広い分野における最新の研究の動向について知ることができるので。実際にそのようなプレゼンテーションによって研究のアイデアが生まれてくることも多々あります。また学生のプレゼンテーションスキルが向上するのを見るのも嬉しいです。ここでは、専門分野に関する知識だけでなく、実際に役立つプレゼンテーションやドキュメンテーションなどといったスキルも身につけてほしい。それを教えることも私ができる国際協力への貢献の一つだと思っています。」
最後に、強調されていたことは、
「協力というのは一人ではできません。個人間の協力、組織間の協力、地域間の協力、国際間の協力、全ての協力において、各個人と各個人の関係が始まりです。その意味では、IDECのような様々な国から来ている学生と出会い、つきあうことは国際協力にとって第一歩になるはずです。」
柿中 真 教授
カキナカ マコト
開発政策コース 教授
2006年 コーネル大学にて博士号取得
2005年9月~2016年3月 国際大学大学院国際関係学研究科, 講師(2005-08)、准教授(2009-12)、教授(2012-16)
2016年4月 広島大学, 大学院国際協力研究科, 教授