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IDEC VOICE IDEC:International Development and Cooperation Professor interview 大学院国際協力研究科 教授インタビュー

研究概要

鹿嶋先生は本年度(2019年)から国際協力研究科で勤務を開始されたばかりで、以前は広島大学霞キャンパスに勤務されていた。これまで先生は、研究も兼ねて多くの活動に参加されてきた。例えば、スイスにあるヨーロッパ核研究組織(CERN)にあるUNOSATという国連機関で「緊急救援活動」や「定常時の保健医療活動ための地理的情報システムの活用支援」などにインターンとして参加されたほか、パキスタンで洪水に対処するための緊急救援活動に参加された。また、JICAを通してセネガルやマダガスカルへ先生の専門を活かした援助を行った経験もあるそうだ。現在も日本国内に限らず研究や学会などで海外を訪問されており、先生の活動範囲は非常に広い。
鹿嶋先生のご専門は公衆衛生。この学問は多種多様な研究分野を抱えており、先生はとりわけ環境保健、地域保健、 国際保健と呼ばれる分野を研究している。具体的には、大気汚染、気候変動や災害による健康影響評価などの研究をされているそうだ。このように、先生は非常に幅広いテーマで研究を展開されているが、研究方法は常に「疫学」的手法を用いている。「疫学」とだけ聞くと専門外の人にとっては具体的に想像し難いが、先生は分かりやすく説明して下さった。先生によると、疫学とは「ある現象の原因と結果を明らかにし、原因と結果の間にある過程を明らかにすると共に、その過程を分析し定量的に原因と結果の関連性を見る」ということだそうだ。さらに先生は、以前された研究を具体例として挙げて下さった。先生は以前マダガスカルで、自宅からヘルスケアセンターまでの距離と乳幼児死亡率の関係を調査したことがあるそうだ。この研究では、自宅からヘルスケアセンターまでの距離が遠くなるほど(原因)、乳幼児死亡率が上昇する(結果)ことが明らかになった。ここでも自宅からヘルスケアセンターまでの距離と乳幼児死亡率の関係性を定量的に表した上で考察を深めることが出来たそうだ。この他にも先生は、国境を越えて拡散する大気汚染問題と健康の関係、室内大気汚染と健康の関係や東日本大震災の被災地に勤務していた医療関係者分布の変化に関する研究などを行ってきたそうだ。

今後の研究

先生はこれまで、主に数量的なデータを用いて研究を実施されてきたが、数量だけを重視するのではなく実際に研究地域を訪れそこで得ることのできる質的データ(地元の方々の話など)も大切にしつつ研究を展開されてきた。「研究の対象となる場所や地域には、必ず1度は行ってみるんです。」という言葉から、先生が理論や数値のみならず「現場」の実際の状況をも重視していることを見て取ることができる。今後も、今までと同様に質的データと量的データの双方を重視して研究をされるそうで、場合によっては以前よりもより質的データを重視することもありうるそうだ。先生によると、人々の健康や彼らを取り巻く環境は、彼らの普段の行動や生活様式と密接に関係しており、その関係を明らかにするには、実際に彼らの居住地や行動を観察することによって得ることのできるデータが大いに役立つという。
加えて、健康問題解決に至るまでには4つの大きな段階(①データ収集、②(データの)評価、③仮説の検証、④実践)があるが、これまで先生は第3段階までに焦点を当てつつ研究をしてこられたそうだ。今後はIDECの特性を活かして第4段階(最終段階)である実践にも重点を置いていきたいという。この段階では、研究の成果を現地の人々に還元するため、彼らが持つ社会的・文化的要因を考慮する必要があり、より一層質的データの役割が大きくなる。質と量を兼ね備えた先生の研究がどのように活用されていくのか、今後も注目していきたい。

求める学生像

先生が求める学生は第一に「少数派(minority)に気付くことのできる学生」だ。「公衆衛生に関する研究は基本的に集団を対象にするのですが、その中には様々な領域で多数派や少数派がいます。例えば、病院に来る人がいる一方で、そもそも病院に来られない人がいます。このそもそも病院に来られない人の存在に気付くことのできる学生に来てもらいたいですね。」加えて先生は、「方法論(学問研究の方法)”How”のみにこだわり過ぎず、研究のための研究をしない学生さんに来てもらいたいです。そして、『なぜ ”Why” 』を追究することのできる学生さんに来てもらいたいですね」とおっしゃられていた。
さらに、育てたい学生像についても尋ねてみた。「育てたい学生像は求める学生像と同じです。取り残されている人(少数派)はいないか、我々の生活する社会システムから一部の方に不利益が発生していないか、なぜそれが起きているのかなどについて考えることのできる皆さんと一緒に勉強・研究を行っていきたいです。そのような学生が増え、彼らが研究者となってくれれば、世界の環境と人々の健康が全体的に少しずつ改善されるのではないかと思っています。」
求める学生像・育てたい学生像の中にも、先生ご自身の研究スタイルの影響が表れている。理論や数値だけを見ていては、いつのまにか現実とはかけ離れた研究をしてしまうことがある。そのような研究は、たとえ現地の人々や現場に還元されても効力を発揮するとは考え難い。その危険性に気付いているからこそ、学生たちには誤った方向に進んで欲しくない。そのような思いを先生の言葉から感じた。

先生の信念と学生へ一言

「研究に対する信念は、『現場を忘れない』と『研究者寄りの研究をしない、研究のための研究をしない』です。それから学生さんたちには社会システムに対する『憤り』を持ってそれをエネルギーにしながら研究をして欲しいです。『これ何かおかしくない?』、『まだ何か足りてないんじゃない?』とか『まだ他に問題点があるんじゃない?』と思いながら研究をしてもらいたいですね。」

インタビューを終えて

インタビューを通して、鹿嶋先生ご自身に関することや先生の研究について知ることが出来た。また、自分とは全く異なる研究をされている方にインタビューを実施したのは初めてであったため、聞くこと全てが新鮮でありかつ刺激的であった。しかし、先生の話はどれも人間とそれを取り巻く環境に関することで、考えてみるとそれは私たちにとって身近な場所に存在するものばかりである。それにもかかわらず新鮮・刺激的だと感じてしまったのは何故だろうか。おそらくではあるが、私たちは身近にあるものや「当たり前」だと思っているものに対してかなり無頓着なのではないだろうか。例えば、多くの人が車を所有し通勤や通学の際に使用している。全国に線路が張り巡らされ、指定された金額を払いさえすれば国内のどこへでも行くことができる。さらに昨今では、格安航空会社の出現により海外にも簡単に行くことが出来るようになった。ほとんどの人がこのことを知っておりその恩恵を享受しているが、一体彼らの内の何人が排気ガスとそれが引き起こす大気汚染を危惧し、それらを防止するために努力を積み重ねているのだろうか。間違いなく私たちは、便利さと引き換えに何かかけがえのないものを消費している。それを私たちに気付かせてくれる一つの嚆矢として、先生の研究があるのではないだろうか。

記事作成者 山本真弘 (文化コース)

鹿嶋 小緒里 准教授

カシマ サオリ

開発技術コース 准教授