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IDEC VOICE IDEC:International Development and Cooperation Professor interview 大学院国際協力研究科 教授インタビュー

Activities in the Cultural and Regional Studies Course “Rural Economics” Laboratory MAHARJAN Keshav Lall, Professor 主な研究 農村経済論と南アジア研究

「課題の発見や解決には “一緒に”という姿勢が大切。 小さな規模でできることは 何かを考え、行動する」 文化動態コース 「農村経済学」研究室 MAHARJAN Keshav Lall 教授

    CONTENTS

  • 農村の生活の様子を理解する ~生産活動と消費活動を見る
  • 農村の生活改善と農村開発とは
  • 農村の持続的開発・持続的開発を考える築

研究の概要と対象地域

マハラジャン先生の専門は、発展途上国の農村を対象として、農村の開発や農業経済、農村の生活改善等について研究を進める「農村経済学」という分野である。先生の一連の研究は、学習―現地調査―実証―体系化―理論化・概念化―実証―他の国に適用、といった手法で行われ、これまでも、日本国内からバングラデシュ、ネパール、インド、インドネシアなどへと対象地域は次々に拡大。現地では、近代的な技術の応用・成果を転化していくという試みを実践したり、人々の生活改善における影響を分析したりしてさまざまな農村の暮らしの変化、実際の生活ぶりを実証分析などから確認してきている。

専門領域: 農村経済学 Rural Economics

農村の生活の様子を理解する~生産活動と消費活動を見る

農村経済学をベースとする先生の研究ではまず、農村の生活がどのように成り立っているのかを見ていく。

その1つが「生産活動」だ。第一は「食糧生産」である。その地域や国の主食を基本に副食までを見ていく。主食は米や麦、トウモロコシ、大麦、ヒエ、ジャガイモなど。副食は野菜類や果物、家畜産物、あるいは鹿や野鳥を獲ったり、草や牛糞で育つ鯉を養殖する場合もある。このように、農村の中の資源を利用した生産活動は大半が食糧と結びついている。多くの場合自産自消である。

しかしその後、時代の要請によってパラダイムが変化し、食糧だけでなく都市と同じような生活ニーズから、農村では調達できないものを得るために現金収入が必要になってくる。

そうして次に生産するのが「換金作物」である。小農の自給自足的な生活から少しずつ「販売して現金化する」ようになってくるのだ。

ただし、小農ではたくさんはつくれないため、グループ化して共同出荷するようになる。すると、仲買人が買ってくれるようにもなり、現金が農村内でも流通するようになり、農村では従来よりも高い水準で生活ができるようになってくる。このようにして、次第にカネ社会が浸透していき、さらに進むと、「出稼ぎ」に出ることにもなるという。「標高3,000mの山村ナムチェバザール(ネパール)でも現金が当たり前の状況になっていることが象徴されるようにどんな僻村であっても途上国の農村は貨幣化されている」と先生は言う。

その次に見るのが「消費活動」だ。生産が消費と結びついていれば、ある程度安定した生活がおくれていると見ていい。しかし、ここでさらに見るべきは、「家庭の中で誰が消費しているか」ということだ。アジアの多くの農村ではまず、一家の大黒柱であるとされる男が食べ、その後に子ども、年配のひと、最後に主婦という順になっている。

「主婦というのは、家事労働+農業労働+家庭の再生産(出産)を行って、消費では残り物を食べる訳です。アジアではほとんどが父系社会であるために、ジェンダーバランスに欠けているところがあるんですね。そこで、誰が消費しているかをちゃんと見る必要があるんです」と先生。
このように、「生産活動」と「消費活動」とを併せて見ることで、「生活が良くなっているかどうか」が把握できる。さらに、先生によれば、農村研究をやっていくとおのずと文化の話になってくるという。

「何を食べるのが贅沢なのかというのは食文化を見ないと分かりません。それを理解したうえで、彼らが本当にちゃんと食べて満足しているかを知る。また、お金が入ってきても暮らしが変わらない場合もありうる。それは入ってきたお金を酒や博打に使ったりするからである。なぜそうなるのか。人間の価値観の問題も含めて、文化についてもしっかり理解する必要があります。」

農村の生活改善と農村開発とは

このように、農村の暮らしを把握したうえで先生は、その「改善」について考えていく。

「まずは、地方自治政府のあり方を含めた政策について。例えば、戦後レジュームで日本は復興に成功したけれども、アジアの国々の場合は、結局成功しないケースが多いですね。」

先生によれば、アジアでは「コロンボ計画(南および東南アジアの共同経済開発のための計画)」があり、そこで国際ファンドを作って、G8各国などがアジアの発展のためにお金を貸したり、援助をしたりした。しかし、多くの途上国は中央集権型の国がほとんどで、トップに権力が集中するため腐敗がはびこり、そうしたお金が農村にまで落ちてくるということは多くの場合なかったという。


「富裕層が豊かになれば貧困層にも富が浸透するというトリクルダウン理論の中で、そうした援助が行われてきたんですが、実際にトリクルダウンはほとんどありませんでした」と先生。

そこで、帰納法的分析を行って出た結論は、「贈与・借款などのODA(政府開発援助)あるいは海外投資家が好む産業におけるFDI(海外直接投資)だけでは農村は良くならない」というもの。その後、「ボトムアップ政策」を取ることが重要だと先生は言う。その成功例のひとつは、日本の「一村一品運動」だ。
「自分たちが長く住んでいる土地に何があるか、強みは何かを考えて、それを商品化するという方法ですね。この地域活性化策はいまでは世界中に広がっています。」

そうした地域の生産品・加工品を商品化していくというアイデアは、ボトムアップ策としてどこでも実践できるのだ。その一方で、海外からの援助は減り、途上国の中央政府の予算も多くはない。そうしたなかでの農村の生活改善はどのようにすればよいのか。

先生が提唱する政策のひとつは、「地方分権化」である。これは、県や郡に各省庁の出先機関を置き、そこでボトムアップされたニーズを精査し、政府が予算のバランスを取っていくという方法だ。

「必要なのは、自助努力と相互扶助。援助などは自助努力と相互扶助の仕組みを補助し少しプッシュしてあげればよく、大々的な国際援助は必要不可欠なものではないんです」と先生は言う。
長く農村の生活実態を調査し、その改善を考えてきた先生は、これまでの研究成果から、自身の研究の方向性を次のようなものになると捉えている。
「アジアの農村には『貧困』と『食糧確保』という問題があるのをこれまで見てきて感じています。なかでも農村開発・農村経済で解決すべきは『貧困』であると思っていまして、研究はそこに収斂していく方向で考えています。」

そして、貧困の解決につながる農村開発とはどのようなものになるのか。
「まずは食糧生産を考える。これは私の研究の力点でもあります。そして、持続的な発展をベースにして、食糧生産を増やす。増やせないところでは、他の方法で現金収入を得る。そうした方法を考えましょうという風に、さまざまな農村で提唱しています」と先生。
特に、“持続的な発展”の重要性を先生は説く。

「農村の場合は、その地域社会や文化のなかで、尊厳を維持した形で、今の生活水準を維持していくことが大前提になります。そこにある資源を利用する際も、枯渇的な利用はダメ。次世代のニーズも考えながら取り組むことが必要です。」

例えば、痩せた土地に化学肥料をバンバン投入すると、5年くらいはいい状態になるが、どうしても土地が固くなってくる。そして土地がダメになる。あくまでも土地を肥やして次世代に残すということを考えながら資源を利用する方向で考えなければならないのだ。そこには在地の技術・ノウハウ、組織の体系的利用、再編が重要である。

農村の持続的発展・持続的開発を考える

では、農村の持続的発展・持続的開発というものは、どうすれば可能になるのだろう。先生はいろいろな村で実現した事例を紹介してくれた。

1.ネパールの山村におけるバイオマスの活用
牛の糞尿をためてメタンガスを作り、炊事や照明に利用。これは日本でも明治期に使われていたもので、“古い技術の再編・利用”である。これにより多くのメリットが生まれた。薪を使わなくなることから、森が育ち、薪の煙害による体調不良がなくなり、スス汚れが減って石鹸を節約でき、薪を運ぶ時間を家事や勉強にあてることができ、人もトイレで用を足すようになるなど、暮らしぶりも変化。資源管理による森林保全・経済的機会拡大につながった。

2.インドネシアにおける住民のエンパワーメント/共同酪農
畜舎を1カ所に共同で建築し、そこでみんなの牛を飼うようにした。すると、作業の効率化と畜舎の費用軽減などコストダウンにつながり、一定レベルの乳量を確保できることで出荷分の値段もアップして、大投資家と同レベルの経営が実現できた。個人では弱い力を共同化することによって力を増し、交渉力が出てくる。住民は組織化によってエンパワーすることによって地域の資源になることを実感した。

3.アフリカ・マラウィにおける食糧安全保障の強化
かつては最貧国のひとつと言われた国。農民は手間のかからないキャッサバと、水の管理が必要になるトウモロコシのどちらかを作っていた。これを両方作ったらどうなるかということで先生の教え子(同国農業省の役員)が政府に働きかけ、実験的に水路を引いて両者の2毛作を実施。2年目に成果が現れ、参加農家の食糧自給率は100%を越えた。これは、地域特異的地方政策の実現及び地域にある労働資源を体系的に活用した事例である。

4.フィリピンにおける生活改善
フィリピンの農村では家の裏にはオープンスペースがあり、そこで豚を飼っているところが多い。これを何軒かでグループ化することによって、エサの仕入れがスムーズになり、豚飼育ローンに保険がセットできるようになり、衛生状態が改善されて肉質も良くなり、病気の予防がしやすくなり、豚肉が高値で売れるようになった。また、以前、お金が必要な時には子豚・豚肉は安値でも売っていた。いわゆる投売りだったが、飼育農家の組織化によるマイクロクレジット活動により安い金利でお金の借り入れができるようになり、クリスマスなど高く売れる時期に合わせて子豚・豚肉を売るといった戦略的販売ができるようになった。結果、世帯当たりの収入がアップし、生活がレベルアップした。これは近代システムの応用、飼育農家の組織化による成果である。

「こうした事例でも分かるように、農村内の資源を活用すれば、ファーストステップが動くんですね。そのためのシーズマネーはほんの少しで大丈夫なんです。必要なのは“小さな努力”と“その地域の余っている資源を有効活用すること”、加えて、幾ばくかの行政の指導や方法の再編・紹介です」と先生は明言する。

また、前述の事例でも見られるような組織化を行うときに大切なのは、「自助努力」と「相互扶助」と指摘。農村自身に備わっているレジリエンス(抵抗力)にも大いに期待している。

マハラジャン先生が研究に臨む際のポリシーは、「現場を大切にすること」「現場を理解すること」だという。

「理論は大事だけれども、その地域の特徴を捉えるためには、現場を知る必要があります。現場を知って実証するという『実証研究』を行ってこれを提示するというスタイルを貫いています」と先生。

そして、IDECという研究科についても、自身の研究スタイルをそのまま活かせる、特色ある組織であるとアピールする。

「我々IDECでは、民間レベルで、現場にある資源を理解したうえで、意義のある国際協力を考えるべく教育・研究を行っています。つまり、上からの目線ではなく、その地域が抱える課題に対して、一緒に理解し、一緒に考え、一緒に対応していく。そういう姿勢がとても大切だと思っています。ちょっとの工夫で生活が良くなっていくんですが、そのベースには人々の『自助努力』と『相互扶助』がなければうまくいきません。研究においても自助努力は非常に大事ですね。学生たちは、積極的に課題を出して、問題を発見し、それを真剣に考える。そうしたところがここIDECの特徴でもありますね。」

MAHARJAN Keshav Lall 教授

マハラジャン ケシャブ ラル

文化コース 農村経済学研究室 教授

1990.2.1~1992.3.31 広島大学総合科学部 助手
1992.4.1~1994.12.31 広島大学総合科学部 専任講師
1995.1.1~1995.3.31 広島大学総合科学部 助教授
1995.4.1~2006.1.31 広島大学大学院国際協力研究科 助教授
2006.2.1~ 広島大学大学院国際協力研究科 教授