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IDEC VOICE IDEC:International Development and Cooperation Professor interview 大学院国際協力研究科 教授インタビュー

Educational Development Course MIWA Chiaki Associate Professor 主な研究 発展途上国の幼児教育・保育と国際協力、途上国における幼児教育・保育の効果

「すべての子どもに良質の幼児教育・保育を」 教育開発コース 「幼児教育・保育開発」研究室 三輪 千明 准教授

研究の概要と対象地域

途上国の貧困地域や農村部に暮らす幼い子どもの健全な発達を保証し、促進するための幼児教育・保育のあり方を研究している。現在は、カンボジアの農村部を事例に、地域の人々が中心となって園運営に携わるコミュニティ・プレスクールへの就園が、子どもの発達やその後の進学にどのような短期的・長期的効果をもたらすのかという研究に取り組んでいる。加えて、幼児教育・保育分野の国際協力の動向、保育者養成教育の内容や方法、在日外国人の子どもの保育などが主な研究課題となっている。

専門領域: 国際教育開発、幼児教育・保育

主要フィールド:カンボジア、コロンビア、チリ

点と点がつながり生まれた幼児教育・保育研究への道

(UNICEFチリ地域事務所にて)

(首都サンチャゴ市内の公立幼稚園の開園式)

三輪先生は多様な職歴を経て現職に至っている。いったんは民間企業に就職したものの、職務に意義を見出せなくなり退社。特許事務所での通訳・翻訳の仕事を経た後、長らく関心のあった青年海外協力隊に応募し、中米のドミニカ共和国へ赴任した。そこでは靴磨きの少年や女中として働く農村出身の女子といった貧困に暮らす子どもたちの実態や理不尽な経済格差を日々目の当たりにし、子どもが子どもらしく生きられることの大切さや、すべての子どもに平等に良質の教育が提供されることの重要性を強く認識したという。そのため、帰国後は大学院で国際教育開発を学んでいる。修了後、外務省のジュニア・プロフェッショナル・オフィサー(JPO)派遣制度によりUNICEFチリ地域事務所に派遣され、教育担当補として勤務した。スタッフの少ないチリ地域事務所では、基礎教育のみならず、幼児教育や母乳育児推進のプロジェクトにも携わることとなり、次第に乳幼児期の子どもへの関心が高まっていったという。
博士課程に復学後まもなく、大学院の助手の職に就く機会を得て、途上国の開発課題や日本の地域おこしを学ぶフィールドワークの計画・実施に4年間携わった。その間には、JICA客員研究員として、幼児教育・保育分野の国際協力に関する基礎研究にも従事している。その背景には幼児教育・保育がもたらす高い投資効果に国際社会の注目が集まり、この分野も途上国の重要な開発課題の一つとして新たに認識されるようになったことがあるそうだ。そして、広島大学着任前の10年間は大学・短大の保育者養成課程で勤務している。

そのようなご自身の多様な経歴について、先生は次のように振り返っている。
「アップル創業者のスティーブ・ジョブズ氏がスタンフォード大学の卒業式で行ったスピーチをご存知ですか。自らの人生を振り返り、大学で興味本位に学んだカリグラフィー(書法)の知識がマックの美しいフォント作りに活かされたことを例に挙げ、人は今やっていることの意味がわからなくても将来どこかで結実することを信じて、人生における点と点をつなぎあわせるのだと述べています。」
先生自身も、チリで思いがけず幼児教育や母乳育児プロジェクトの担当になったり、帰国後は日本の保育者養成に長らく携わったりしている。特に、保育者養成に従事した10年間は国際協力との関わりが殆どなく、時折、閉塞感を抱くこともあったというが、結果的にはこれらの点と点がつながり、現職に活かされていると実感するそうだ。

「途上国の貧困や格差の削減に貢献する幼児教育・保育のあり方とは」

(カンボジア農村部のコミュニティ・プレスクール)

前述のとおり、三輪先生は現在、カンボジアの農村地域で幼児教育の研究を行っている。
「周辺に公立や私立幼稚園のない農村部では、コミュニティ(地域社会)が中心となって、地域の人材や資源を活用して運営するコミュニティ・プレスクールという代替的な幼児教育の形態があります。その存在が農村家庭のどのような子どもの就園を促し、その教育実践が子どものどのような発達を促進し、その後の人生にどのような影響を与えているのかを研究しています。」
現在は、約10年前に行った調査で当時5歳だった子どもたちの追跡調査を行い、その後の進級・進学状況の聞き取りを行い、就園の長期的効果や異なる運営形態のコミュニティ・プレスクールによる効果の違いを調べているという。
「本来ならば、こうした農村部や貧困地域の子どもほど優先的に質の高い幼児教育の機会が与えられるべきなんです。というのも、主に先進国での研究を通して、幼児教育は社会経済的に恵まれない子どもに最も高い効果のあることが知られているからです。しかし、財政難の途上国の多くではその実現が困難であり、それを待つ間にも子どもの潜在能力を開花させる機会はどんどん失われていきます。そのため、途上国の農村部や貧困地域の子育て家庭にどのような内容・方法の幼児教育・保育を提供することが子どもの生活改善や発達促進につながり、さらには貧困や格差削減に貢献するのかといった課題に関心があります。」
かつてドミニカ共和国でみた貧困に暮らす子どもたちの姿が先生の研究の原点にあるようだ。

「探求してみたい」―その熱い思いを大切に

(三輪ゼミの学生とともに)

教育開発コースの魅力は何かを問うと、幅広い専門分野の教授陣と豊かな学習環境にあると教えてくれた。国際教育協力を扱う国内の大学院でIDEC教育開発コースほど多様な専門分野の教員が揃っているところは他にない。また、先生方は有能な研究者であるだけでなく、熱心な教育者でもあるという。さらに、在学生に占める途上国の留学生の割合も高く、その多くは母国の教育行政官や教員であることから、日本人学生にとって、そのような人々と肩を並べて途上国の教育や国際協力を学べる学習環境は他にはない魅力を持っているということだ。
そんなIDECに、今後どんな学生が来てほしいかを尋ねたところ、単に国際協力の仕事に就きたいという漠然とした願望だけでなく、可能な限り、自らの経験や見聞から得た問題意識を持って来てほしいという答えが返ってきた。
「やはり何らかの問題意識を持った学生に来てほしいですね。例えば、『貧困家庭の子どもの多くはなぜ低学年から学習困難に陥るのだろう』といったような素朴な疑問や問題意識を自らの体験や見聞を通して持っていると、その強い想いが研究内容を深め、研究過程で起こりうる困難を乗り越える原動力にもなるからです。」

最後に、国際協力分野に関心がある高校生・大学生に対して、次のようなメッセージを送ってくれた。 「実は、高校や大学の段階では国際協力をあまり意識しすぎない方が良いと思っています。語学や国際関係等を学ぶことはもちろん大事ですが、それ以上に、自らの専門性をどこに置くのかをしっかり考える必要があると考えるからです。まずは何らかの分野で専門性を確立し、それを通してどのように社会に貢献できるのかを考えてみると、活躍の場が国内だけでなく途上国にもあり、さらには国際協力の形へと広がりをみせるというのが理想的ではないでしょうか。この分野で専門性をもたないジェネラリストとして生き残っていくことは不可能ではないですが、結構難しいように思います。」

三輪 千明 准教授

ミワ チアキ

教育開発コース 「幼児教育・保育開発」研究室 准教授

主な経歴

1990年1月~92年3月 青年海外協力隊 ドミニカ共和国
1996年7月~98年7月 国連児童基金チリ地域事務所 アシスタントプログラムオフィサー(教育)
2002年8月~06年3月 名古屋大学大学院国際開発研究科 助手(海外実地研修・国内実地研修担当)
2006年4月~07年3月 浜松学院大学短期大学部 講師
2007年4月~12年3月 浜松学院大学 講師(2007-08) 准教授(2008-10) 教授(2010-12)
2012年4月~16年3月 倉敷市立短期大学 教授
2016年4月~ 広島大学大学院国際協力研究科 准教授