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IDEC VOICE IDEC:International Development and Cooperation Professor interview 大学院国際協力研究科 教授インタビュー

Educational Development Course Science Educational Research-and-Development Room SHIMIZU Kinya Professor 主な研究 開発途上国における理科教育に関する研究

「よその国の話をする時も、知り合いの顔が思い浮かぶ。現地に行くことで確実に自分の中に蓄積されるものがある」 教育開発コース 理科教育開発研究室 清水 欽也 教授

    CONTENTS

  • 生徒の科学的プロセススキルをどのように育成していくか
  • そのためには、どのような授業方法やカリキュラムが適切か
  • IDECで研究を進めていくことの意義とは

研究の概要と対象地域

清水先生の専門は理科教育学である。なかでも、開発途上国における問題解決能力を育成していくために、どのような科学教育が望ましいかといった観点から研究を進めている。対象となる国はザンビア、インドネシア、カンボジア、バングラディシュ、ルワンダなど幅広い。
国ごとの授業の現状を比較してみると、途上国の中でも大きく3段階くらいにレベル分けされるという。
その3段階とは、①一番理想的な段階 ②それより一段低い段階 ③最低レベル の3種。
①は、生徒を中心に展開され、本当に生徒を信頼して行われているもので、思考力も理解力もきちんと養われる授業だ。
②は、先生は内容を理解していて、できるだけ分かりやすく伝えようとしている授業だが、TV的で、生徒に考えさせる場面は非常に少なく、見て聞いて分からせようとしているもの。
③は、先生も実はよく分かっておらず、教科書に書かれている内容を丸暗記させるもの。生徒の疑問を抑圧してしまうような授業だ。
「カンボジアは当初③でしたが、今は②に上がろうとしている段階。バングラデシュも同じくらい。インドネシアは教師教育が随分充実してきて、②から①への移行期です。アフリカはまだ授業をよく見ていないのですが、おそらく教え込みの③のレベルではないかと思っています」と清水先生。こうした詳細な分析こそが、先生の地道な調査研究の成果であると言えよう。

専門領域: 理科教育学 Science Education

生徒の科学的プロセススキルをどのように育成していくか

途上国の理科教育の現状はいったいどういったものなのだろうか。

「先進国に比べて改善すべき点がまだまだあります。なかでも、知的インフラが少なく知らないことが多いという点がよく挙げられますが、それは決して記憶能力が劣っているせいではないと私は思います」と清水先生。

「特にアフリカなどでは、文字を使わずに、えらい人の話を聞いて頭に叩き込んで複製するという学習方法が取られています。ですから、記憶能力という点ではむしろ優れていると思える場面も少なくありません」。

つまり、改善すべきは教えられる知識の量ではなく、そうした教え方にこそあると先生は指摘する。
「こうした学習方法では、教わった見方が絶対で、それ以外の見方ができません。そのため彼らは、身に付けた知識や概念を実際の場面に適用して現象を捉えるといった“活用する能力”が非常に弱い。実際の問題解決場面に知識等を生かせないという問題点があります」。

こうした現状にあるからこそ、途上国には、「科学を教える意義」があるというのが先生の立場だ。
「1960~80年代にかけて、アメリカや日本では盛んに、科学を教えることの意義が説かれていました。これは、科学的な知識を教えることよりも、むしろ、科学を使った考え方を教えることが重要だという考え方です。科学的な探求の過程で使われる思考方法を訓練する必要があると言われていて、これがちょうどいまの途上国にあてはまると考えています」。

こうしたことから先生は、どういった授業スタイルやカリキュラムであれば、学習した知識を活用したり、推理したりする能力の育成にあたることができるのかといったことを中心に研究を進めている。

しかも、途上国に焦点を当てたこうした研究を行っている研究室はおそらく日本ではここだけとのこと。
「日本あるいは先進国を対象にした研究は多いですが、途上国でデータを集めて研究をしているのはここだけでしょう。途上国に関する研究データの蓄積量については、うちはどこにも負けませんよ」と胸を張る。

そのためには、どのような授業方法やカリキュラムが適切か

まず授業方法について。
「思考法を鍛えるという点において重要なのは、“知識を活用する場面を授業の中で用意する”ということ」と清水先生。
例えば、日本で一般的なのは、先生がある現象を生徒に見せて、「これはどういうことかな?」と質問し、生徒がそれに答えるという風な流れだ。これに対して途上国では、教科書に出てくる知識を反復させて覚えさせるというのが一般的な授業スタイルなのだという。

「教科書を見ても、日本の場合は問いで始まるんですが、ザンビアの理科の教科書の場合、疑問文はほとんど見られません。ですから途上国の場合は、言われたことを疑ってみるとか、自分の頭の中で考えてみるということが授業の中で習慣づけられていないわけです。自分の頭で考えることは悪いことだとすら思っている可能性があります」。

そのため、「こうした文化をなんとか変えていきたい」と先生は言う。
自分自身で疑問を持ち、問題を見つけて、解決していくという習慣や姿勢を身に付けてもらう、そのためにこそ、途上国での理科教育は重要なのだ。
先生は授業方法の改善に向けて、『問題解決の流れに沿った授業をつくる』よう指導している。基本形は、村山哲哉さん(※)の提案する「問題解決の8つのステップ」だ。とりわけ小学校理科の授業の中では、こうしたステップを踏んでいくことが望ましいと考えられ、先生の研究では、それぞれのステップに求められるスキルが生徒の側にきちんと備わっているかどうかを確認する作業も行っているという。

問題解決の8つのステップ 自然事象への働きかけ→問題の
把握・設定→予想・仮説の設定→検証計画の立案→観察・実験→結果の整理→結果の考察→結論の導出

さらに、カリキュラムの研究について。
最初に先生が指摘するのは、教える内容に明確な根拠のないカリキュラムの存在だ。これは途上国ばかりでなく、先進国でも時折見られることがあるという。

「この学年でなぜその内容を教えなければいけないのかという、学年ごとの積み上げ方の理論がなかったりする」と清水先生。逆によくできている例として挙げられるのは、日本のカリキュラムである。
「日本の場合は、小学校1・2年生は生活科、3年生以上では、全学年に物化生地が入っているんですよ。しかも学年ごとに並べていくと、3年生は比較中心、4年生は関係づけが中心、5年生は条件制御、6年生は多面的な物の見方という風に、“学年を追うごとに思考レベルが上がっていくようにできている”」。

このように、日本の場合は、使う思考力の種類という形で段階付けが行われており、その背後には、どうやったら子どもが分かりやすいのか、どうやったら子どもが力をつけてくれるのかという思想がある。
「途上国のカリキュラムは、教える側の押しつけでしかありません。だから、もっと子どもの実態を見たらどうかと提言できるような研究を行っています」と話す先生のもとでは、途上国におけるカリキュラムの比較研究や教科書内容の分析などが行われている。

※村山哲哉氏:文部科学省 初等中等教育局教育課程課 教科調査官

IDECで研究を進めていくことの意義とは

カンボジアの教員養成校教師との「てこ」についての予備実験の様子

「私自身、IDECに来ていなかったら、バングラディシュやザンビアなどには行っていなかったと思います」と先生は言う。先生と途上国の関係は、IDECおよび留学生との関わりによるものが少なくないためだ。

「数年前までは、JICAの公式プロジェクトでカンボジアに関わっていましたし、今は、広島県の草の根国際協力プロジェクトでカンボジアに行っています。また、IDECには毎年1名はカンボジアからの留学生を受け入れているという実績もあります。そのため、蓄積量としてはカンボジアが一番多いですね」。

カンボジアでは、現地の教師への提案の一環として、清水先生自身が実験を取り入れた理科の授業を現地でやってみせたこともあるそうだ。
「スポーツドリンクと成分のよく似たココナツジュースに電池を入れるとどうなるか?という実験を行いました。要は電解質溶液に電気が流れて水素の泡が発生するというものなんですが、生徒たちも沸き立ってとても楽しかったですね」と振り返る。

また、ザンビアとのつながりは、IDECとJICAの連携融合事業である「ザンビア特別教育プログラム」によってスタートした。これは、学生がJICA青年海外協力隊に参加し、現地で理科や数学を教えながら、現地の生のデータを集めて、それらを修士論文にまとめるという大学院のプログラムだ。
「ザンビアとのつきあいは結構盛んで、IDECでは理科研修への参加を途上国から受け入れたりしているんですが、それもザンビアからの方が大変多いですね」。

そして、同科の魅力を尋ねてみたところ、「いろんな国から、いろんなバックボーンを持った人たちが集まっていますよね。そうした学生たちのおかげで、普通だったら行けないような国にも行くことができる」と笑いながら、諸外国へ出かけていくことによって得られるものについて、熱く語り始めた。
「例えばザンビアに行かなくても、ステレオタイプな意見を言うことはできますが、そんな地に足のつかない世界平和を語るよりも、その国に行って、自分の経験に基づいて話ができるというのはすごくいい。ウクライナの紛争が論じられる時に、ウクライナの知り合いはこんなことを言っていたなぁというのが脳裏に浮かぶ。もちろん、ごく一部の意見でしかないけれども、確実に現地のひとりの人の意見な訳です。そういう感覚が持てるというのが、このIDECで研究することの意義だろうと思っているんですよ」。

途上国でのさまざまな経験は、確実に自分の中に蓄積され、独特な感覚が養われていく。先生は若い学生たちにこそ、そうした経験を積んでいって欲しいと期待している。

理想として思い描くのは、「子どもたちの成長が実感できるような理科教育」という清水先生。「あれ?と思ったことを解明していく、その手段のひとつが科学実験なんですね。

疑問に思ったことは科学的な手法で調べられる、それを知ってもらうのが前述の授業の主眼でもあります」。

そして、これらの授業を通して伝えようとしているのは、「見かけにごまかされずに、本質を見ようという態度」の習得であるという。

科学的思考を身に付けることは単に理科教育のためだけではない。途上国の子どもたちのこれからを切り拓いていく力の養成に向けて、先生の教育研究は続いていく。

清水 欽也 教授

シミズ キンヤ

教育開発コース 理科教育開発研究室 教授

1992年1月1日~1999年3月31日 シカゴ科学アカデミー 国際科学リテラシー開発センター 研究員
1992年1月1日~ 北イリノイ大学 社会科学調査研究所 研究助手
1999年1月1日~2000年3月31日 広島大学 教育開発国際協力研究センター 講師(研究機関研究員)
2000年4月1日~2001年3月31日 広島大学 教育学部 講師(理科教育方法学)
2001年4月1日~2007年3月31日 広島大学 大学院教育学研究科 講師
2007年4月1日~2008年3月31日 広島大学 大学院教育学研究科 准教授
2008年4月1日~2013年3月31日 広島大学 大学院国際協力研究科 准教授
2014年4月1日~ 広島大学 大学院国際協力研究科 教授