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IDEC VOICE IDEC:International Development and Cooperation Professor interview 大学院国際協力研究科 教授インタビュー

Development  Technology Course “Agrobiology” Laboratory TRAN Dang Xuan, Associate Professor 主な研究 農業および植物生理科学に関する研究

「研究者にとっては新しい発見が大事。そのためには愛が必要です。研究には愛を込めなければ」 開発技術コース 「農業生物学」研究室 TRAN Dang Xuan 准教授

    CONTENTS

  • 稲の研究~収量・質の向上と気候変動への耐性を高める
  • 持続可能な農業生産を目指した安全性の高い農薬づくり
  • 高糖度化作物によるバイオマスエネルギーの開発

研究の概要と対象地域

チャン先生はベトナムから1998年に来日。宮崎大学および鹿児島大学で学んだ後、琉球大学でのポスドク、助教を経て、2012年に広島大学に赴任しました。

「ベトナムは農業国なので、元々私は農業が好きですね。子どものときは水田で田植えを手伝ったりしていました」と故郷を懐かしむチャン先生。しかも、先生が高校生の頃でも白いご飯は足りなかったため、トウモロコシを混ぜるなどして食べていたという。「ベトナムの農業では主として稲を栽培します。アジアでも稲はとても大事なもの。そのために、稲の研究をしています。」

稲の研究を核とした農業および我々の未来につながる新技術の開発に向けた研究は、温室や水田での栽培実験や研究室での解析といったスタイルで、毎日地道に続けられ、いずれはアジア・アフリカの発展途上国への応用が目指されている。

専門領域: 農業生物学 Agrobiology

稲の研究~収量・質の向上と気候変動への耐性を高める

先生の中心的な研究は、『稲』の研究である。その研究理由は次のようなものだ。

「いま地球は人口が増えています。そうしたなかで、飢餓人口は9億にもなり、食糧生産量はいまの2倍くらいに増やさないといけません。世界の食料の半分はお米で、お米はとても大事な食糧なんです。しかし、作付面積はそれほど多くないし、環境の問題も発生します。そこで、お米の改良をめざす研究をおこなっています。」

改良は大きく3つの切り口から行われている。
1つは『収量を高くする』こと。日本はすでにある程度高い状態だが、発展途上国では収量が少なく不安定であることが問題となっているため、これを改善することで各国での供給を増やすのが狙いだ。

2つ目は『質を高める』こと。例えば、ベトナムの米を輸出するためには、質の良いものをつくらなければならない。質を高めて輸出可能な米づくりを目指している。

3つ目は『気候変動に強くする』こと。「地球温暖化などの影響により、病原菌の発生の拡大や塩害、雨、洪水、乾燥などが発生しています。これに対して、先進国の場合はお金も技術もあるのであまり問題になりませんが、途上国では大きな影響がある。そのため、気候変動への耐性作物をつくろうとしています」と先生。

方法としては、これらの特性を持った米ができるよう、『遺伝子工学を用いた育種』を実施している。稲の中で何の遺伝子がどこにあるかを特定し、欲しい遺伝子だけを稲の中に入れることで、一般的には10~20年かかる育種の時間短縮が可能となる。先生の研究室ではこれまでベトナムや中国の研究者と共同研究を行っており、将来的にはベトナムを含めた発展途上の国々にこの成果を持ち込みたいと考えている。

持続可能な農業生産を目指した安全性の高い農薬づくり

次に行っているのは、『持続農業』へのアプローチだ。
「いまの農業では、生産に農薬を使い過ぎています。例えば、雑草が生えてきたり、病原菌が発生したりという時にすぐ農薬を使います。しかし、それは環境によくありません。」

この農薬の使用を抑える方策として先生が考えるのは、“植物の機能を利用して持続農業をする”ことだという。


「私たち人間は足があるので、危ない時には逃げられますが、植物は逃げられない代わりに、危険が及ぶと身を守るために、化学物質をつくるんですね。その物質で自分の身を守って相手を抑え込む。そこで、この物質を同定して、それを持続農業に利用しようと考えています」と語り、こうした植物由来の物質を使った安全性の高い農薬をつくろうと、さまざまな実験をおこなっている。

「例えば、稲の中でも、雑草をよく抑える品種があったり、水がないときに稲が身を守るためにある物質をつくるんですね。そこで、どんな物質が有益なのか、関係する遺伝子は何なのかを調べて、そうした物質に似たものを合成し、新しい農薬として使えるかどうかを調べていきます。

ベトナムはもとより、さまざまな発展途上国での普及を目指すことから、「できれば安価なものをつくりたい」と意気込んでいる。

高糖度化作物によるバイオマスエネルギーの開発

3つ目は、『バイオマスエネルギーの開発』に関する研究だ。
二酸化炭素の増加や地球温暖化問題への対応策として、化石燃料の利用をある程度減らすための再生可能エネルギーづくりについて研究しているという。

「私は化学反応ではなくて、作物と植物のエネルギーを利用します。いわゆるバイオマスエネルギーでエタノールを生成し、これをガソリンに3~5割混ぜると自動車に使えます。」

例として紹介してくれたのは、『ソルガム』という作物だ。

「アフリカにはソルガムというイネ科の甘い作物があるんですが、これには10~20%という糖度があります。バイオエタノールの合成には高い糖度が必要になるので、作物の糖度が高ければ燃料の原料が多いことになります。そこで、その高糖度の遺伝子を用いた育種によって、短時間で糖度の高い作物を育てて、エタノールを生成するという方法を研究しています。」

先生によれば、自然界では、バイオマスの多いものは糖度が低いため、ソルガムから高糖度の遺伝子を抽出して別の作物に入れることで高糖度・大バイオマスのものができるとのこと。長期的に安定した量を調達することが難しいとされるバイオマスエネルギーだが、先生の研究が実を結べば、長期的な供給ポテンシャルが見込める作物ができることとなり、我々の暮らしへの貢献度も大いに高いものとなりそうだ。

研究の結果は論文にも著されるが、実際に現場で実用化されることに重きを置いているという。

「ベトナムだけでなく、発展途上国や熱帯の国々で、私たちが育種した稲が実用化できるようにと願って、日々研究に励んでいます。また、よく学生に言っているのは、小さいことでも新しいことを発見して生かせることが大事、ということ。研究はなかなか結果が出ないことが多いですが、結果は出なくても、好きなことを一生懸命やるといい」とチャン先生。

また、研究への想いについて次のように話す。

「研究では新しい発見をする必要がありますが、愛がないとなかなか見つけられません。例えば子どもだって、毎日その成長を見て愛を込めないとどのくらい成長しているのか分かりませんよね。それと同じで、稲の研究も、稲の吐息や思いに至るまで稲のことが好きでないと、新しい発見は難しいんです」と先生。

最後に、IDECの魅力についても語ってくれた。

「ベトナムは、九州を除いた日本とほぼ面積が一緒です。それでいて日本が発展した理由は、科学と教育だと思うんですね。留学生が多くを占めるIDECは、研究はもちろん、国際交流や国際協力ができる研究科ですから、ここで勉強する間はしっかりいい友情、いい関係をつくって、帰国してからは日本と母国のネットワークをつくることもぜひやってもらいたい。もちろん日本人学生も大歓迎です。修了生たちが活躍してくれることを期待しています」と微笑んだ。

Tran Dang Xuan 准教授

チャン ダン スアン

開発技術コース 農業生物学研究室 准教授

2006年4月1日~2011年3月31日 琉球大学農学部亜熱帯生物資源学科 助教
2012年4月1日~ 広島大学大学院 国際協力研究科 准教授